自転車店のなりかた講座、第2回は「自転車店は対面対応が重視されます」です。
前回は大前提となる自転車店として対応できる機種のまとめと、作業・保管スペースについてのお話でした。
第1回をお読みいただいた方の中には、近年のDX、AI活用といったデジタル化の激しい世の中で随分アナログな話だな、と思われた方もいるかもしれません。
まさに。自転車店はアナログな仕事なのです。
それこそ令和の現代では店舗に赴かずに活用できるサービスが増えてきました。
不動産関連では内見をVRや動画ツアーですませたり、簡単な質問程度だったらLINEや個別のHPのAIチャットなどのサービスを通じて行えたり、非常に利便性の高いサービスが展開されています。
では、自転車店でも導入すればいい。とはならないのがこのお仕事のおもしろいところであり大変なところです。
まず、自転車店の業務の多くは修理・調整・点検です。
上記がおおむね6~7割、新車の販売が4~3割というのが一般的な業務の割合でしょう。もっと極端に8:2、9:1というお店もあります。
さて、この修理・調整・点検ですが、手作業でしか行えません。
たとえばパンク修理のお持ち込みであったとします。
まずはお客さんからTELでのお問い合わせです。
お客さん「パンク修理をお願いします。金額はおいくらですか?」
自転車店「パンク修理は○○円です。」
一般的なサービスであればこれが正解だと思います。しかし自転車店の場合こういったご返答はできません。
これはパンクの原因が複数あることに起因します。
今回は、釘をタイヤで踏み抜いてしまったと想定しましょう。
タイヤ内部のチューブに穴が空いたのでその穴をパンクパッチでふさいで作業完了。の、前に。
まずは穴の状態を確認します。
あまりに穴が大きい、またはタイヤに刺さった釘がチューブの隣接する場所に複数箇所穴を空けている場合はパンク修理してもチューブがもたないことが多いのでチューブの交換修理が必要です。
また、タイヤへのダメージはどうでしょうか。
タイヤの底面に大きな穴が空いている、またはケーシングを著しく損傷している場合などにはチューブ交換では足りず、再度パンクする可能性が高いためにタイヤ交換をする必要があります。
これらの交換作業に必要なタイヤやチューブには、バルブ口金の形状やタイヤ・チューブサイズなどが数十通りあるため、こちらの確認も大切です。
また、リムテープの状態も確認が必要です。
当店ではタイヤチューブ交換の際は毎回変えていますが、パンク修理時であっても劣化によりリムテープが切れている場合には交換しないとこれを原因とした新たなパンクを生んでしまいます。
なんと、単純に釘などを踏み抜いてしまった場合でも4通りの対応方法があります。
これはつまり
①まずは車両をお持ち込みいただいて
②作業者がタイヤ内部を開いて状態を確認し
③交換が必要な場合はタイヤ・チューブの在庫を確認して場合によっては発注をかけ
④金額のお見積もりと対応方法をお客様に説明する。
ここまでして初めて作業に入れます。
店舗での実作業を伴わないとなると③か④くらいのもので、あとは現物を見るまで分からないのです。
そのため上記のお客さんのご連絡への返答として正しいのは、
「パンク修理は○○円です。ただしチューブの状態などは中を確認しないと対応方法が分からないのでチューブ交換だと○○円です。まずは一度車両をお持ちこみください。」
となります。
これもまたいくつかある対応方法の1つにすぎません。
自転車は、電動アシスト自転車の一部機能を除いては、外環境をハードに使用する割に診断装置が設置されていません。
車であれば、以前からCPUによる診断機能があり、メーカーごとに設定された機器で異常などを検知することもできるようですが、自転車の場合はこの診断機能を人間が手作業で行うこととなります。
だからこそ、電話やネットを通じたやりとりではなく、対面での対応が基本となります。
タイヤを開いて中をお客様が確認して画像や動画で共有できれば少しはちがうのかもしれませんが、一度タイヤを開いた場合ちゃんとタイヤをもとに戻さなければ自転車を店舗にお持ちいただく際にタイヤを痛めてしまう可能性がある、など、実際には難しい条件が多いのです。
そのため、もしも極力お客さんとの直接対応をしたくない、人とのコミュニケーションをとりたくない、という希望がある場合には自転車店はオススメできません。
逆に言えば、AIに仕事を奪われにくい、人間が行い続ける珍しい仕事の1つとも言えますね。
修理のみであればお客さんとのいわゆる商談スペースのような、座って話せる、もしくは資料をお見せできるスペースはいらない。とも、なりません。
たしかに新車購入の場合は防犯登録や保険関係、補償関係の書類の記入などがあるのでこのようなスペースは必須です。
では、なぜ修理のみなのにスペースが必要かと言うと、パーツの選択肢が複数あるからです。
前回解説した通り、互換性のあるパーツの一部交換に関しては対応するものを使用するしかないのでお客さんから了承さえいただければすぐに発注して終了です。
しかし、これが互換性パーツ全体の交換、もしくは互換性の関係ないパーツであった場合はどうでしょうか。
店頭に複数パーツを置いていてお客さん自身がセレクトし作業するなら構いませんが、あれだけ種類のあるパーツ全てを保管しているお店もそうありません。
また、工業製品であるがゆえに、保管期間が長すぎたり、保管状態が悪いと、装着後に不具合がでることもあります。
そのため当店でもよく使うパーツであっても、その都度メーカーに注文するものと常備しているものを分けています。
また、大量注文したほうが仕入れ値がお安くなる場合も保管期間を勘案して少数納品にしたりしています。
そうするとパーツについての説明や選択肢のご提示などをするのにどうしても商談スペースが必要となります。
紙の資料にiPadなどの端末、電卓に計算書と、卓上に広げるものも多くなります。
当店ではこのような場所を設けています。お子さんの自転車の場合は親御さんが同伴されたり、ご夫婦でご来店される方もいるので、椅子は2脚用意しています。
また、修理をお待ちのお客さんが座って待てる場所としての機能もあり、このような場所があるかないかで私たち自身の作業効率も格段に高くなります。
また当店では、お子さまが同伴した場合を想定してお子さま用知育遊び道具として「ブロック」と「ルービックキューブ風9面パズル」を置いています。
店長のわたし、いつもお子様の想像力の凄さに驚かされています。
だって、短時間でイメージした恐竜の形にブロックを組み合わせて作つてしまうんですから!
これにより、店内でも騒ぐことなく静かに遊びに集中して時間を過ごせるので商談や修理の待ち時間でも安心できます。
スペースに余裕がない場合には省くこともできる場所ですが、ご自身の営業スタイルを想定して設置するかどうか検討してみてください。
私自身もいろいろなサービスや業務を体験して、ここまでアナログな仕事も珍しいと感じます。
しかし、自転車という製品の価格帯や性質上、これからもこのアナログな部分は変わらないでしょう。
そのために店頭をいつもキレイにしておく必要があったりと大変な部分もありますが、逆に言えばお客さんと店側の人間の、顔の見えない商売ではない、という特徴があります。
ちゃんとお客さんと意思疎通をして、正しく説明し、正しく作業をすればいわゆるクレームなどもそうそう起こりません。
今回は自転車店の特徴についてのお話でした。次回は工具関連です。
教えてコスナ店長!自転車店のなりかた講座
第1回はこちらを参照してください。
第3回はこちらを参照してください。