日本の食卓に欠かせない、“あれ”の製造現場を見学させていただきます

加藤兵太郎商店

伝統と技術、というテーマでいくつかの対談記事を作成してきました。

そんな中で、やっぱり外せないのが日本の食のこと。

毎日の食卓に並ぶ、伝統的な和食の“あれ”。

どうやって作られているか知っていますか?

今回はそんな“あれ”を作る加藤兵太郎商店さんのお店にお邪魔します。


 

加藤兵太郎商店

加藤兵太郎商店の加藤篤さんにご案内していただきます。

 

コスナ お忙しいのに、すいません。お邪魔します。

加藤さん はい、お待ちしていました。

コスナ 今日は蔵を見学させていただくことになりまして。お仕事中にもかかわらず…。

加藤さん 全然大丈夫です。あ、これ付けて下さい。

コスナ シャワーキャップ、髪の毛が落ちないようにですね。分かりました。

加藤兵太郎商店

コスナ 本日は日本の食卓に欠かせない“あれ”、お味噌を作っていらっしゃる蔵にお邪魔します。

加藤さん ちょうどいま、金山寺味噌のための大豆を蒸しているところなんです。

あそこにあるのが、大豆用の蒸し釜です。

加藤兵太郎商店

コスナ あちらの釜ですか。これは大きいですね。

人間2人分くらいの高さがあります。

加藤さん そこで作業しているのがうちの社長なんです。

大豆を蒸す作業は、実は手順やコツがいろいろあって、

別の人間がおこなうと仕上がりが変わってしまいます。

コスナ そうなんですか。大きな器具を使用していても、最終的には人間の経験が活きるんですね。

加藤さん 実際、加藤兵太郎商店の味噌は手作りなんです。

蒸し釜などの設備が大きくなっているので機械化しているように見えますが、

機械にまかせっきりにしているところはほとんどありません。

コスナ 鍋が大きな業務用というだけで。

加藤さん その通りです。だからこそ、経験や職人としての勘が必要になってきます。

ちなみにあの鍋は、味噌を作るときには1.3㌧の大豆を蒸します。

コスナ 1.3㌧! 想像のつかない量ですね。

加藤さん 今日は金山寺味噌なので14㌔くらいです。

かなり少量なんですよ。

コスナ 大豆14㌔も十分大きな単位なんですが…、

さきほどの大豆のお話のスケールが大きくて少ないように感じてしまいます(笑)。

加藤さん 普段の仕込みから考えると、ほんとに少量の大豆を蒸すためだけ、という感じです。

ちょっともったいない作業でもあるんですが、味噌の仕込みと重ならない時期は、

今回のように少量でも仕込みをしていくんです。

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加藤さん 大豆の仕込みは、ほかの工程に比べればシンプルです。

水に漬けて、蒸す。この2つだけですので。

手間がかかるという点では、米麹が一番大変です。

では、2階へどうぞ。ちょっと暗いんですが。

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コスナ これは、また大きな桶がいくつもありますね。

加藤さん ここは米麹をつくるところです。

意外と知られていませんが、味噌を作るのに重要なものは麹です。

国内生産される味噌の約80%ほどが米麹を使用し、あとは麦麹などを使用した味噌が主流です。

コスナ 米麹を使うと、米味噌、麦麹を使うと麦味噌、となるんですか。

加藤さん ええ、その通りです。

あれ、一番上の桶がお米を洗う用です。それからお米を一晩水に漬けて、

今度はその下の桶で蒸していきます。

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コスナ こちらはさきほどのような大きな釜ではなく、桶で蒸らすんですね。

加藤さん 圧力をかける必要がないので。

この蒸し作業も熟練が必要です。大量のお米を蒸し上げるので、

場合によっては蒸しムラができてしまったりするんです。

コスナ そうすると、お米が無駄になってしまいますね。一度にどの程度蒸すんですか。

加藤さん 大体一度に蒸すのが900㌔です。

コスナ 900㌔! さきほどの大豆もそうですが、こちらも、ものすごい量ですね!

加藤さん 人の手でおこなうので、けっこう重労働なんです。

あとは蒸す作業なので、夏場は暑くて…。

汗びっしょりになりながら作業を進めます。

ほかにも、雑菌との戦いが大変です。

コスナ ああ〜、衛生面の。ここに入ってくるときに、靴を脱いだのも雑菌の繁殖を防ぐためですか。

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加藤さん そのとおりです。

さきほどの桶で蒸したお米は、放冷器という器具にいれて冷まして、この四角い容器にうつすんですが、

このときのお米の温度は、おおむ35度程度です(設備やそのときの気温によって狙う温度は異なる)。

コスナ なにか意味があるんでしょうか。

加藤さん これ、麹菌を育てるのに適した温度なんです。

ただ、この35度前後というのは同じく菌である雑菌も繁殖しやすいんです。

だから、この器具を使うときは、とにかく容器をよく洗って、除菌し、

作業をする人間も手洗いや服装に気をつかって、その他もろもろの除菌を徹底します。

コスナ 目に見えないものとの戦いとなると、非常に気をつかいますね。

加藤さん これも熟練の勘というか、これで大丈夫! という感覚を身に付けなくてはいけません。

ただ、基本に忠実にやっていれば問題ありません。

これまでも、失敗した、ということはありませんから。

先人の教えを守っていけば大丈夫なんです。

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コスナ 受け継がれていくものがあるんですね。

加藤さん ええ。そして、こういった作業を合計で4日かけておこなうんです。

コスナ どこかの工程で失敗すると、時間も労力も多大な浪費に。

加藤さん 本当に怖いのは3日目です。このタイミングで、大豆も水に漬けてしまいます。

だから米麹を失敗すると…

コスナ 大豆1.3㌧も廃棄になってしまう!

加藤さん かなり神経を使う作業です。

先述の通りこれまで大きな失敗はないんですが、いまだに緊張します。

コスナ ここからまだ気をつかわれる作業が発生するんですよね。

加藤さん もちろんです。では、また下に移動しましょう。

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加藤さん 実は、さきほどの米麹の発酵は、2日目は下の階で行います。

米麹は1日目の発酵を過ぎると非常に元気になって暴走します。

そうすると、自分で熱を発して温度を上昇させてしまうんです。

コスナ 力強い生き物ですね。

加藤さん そうなんですよ、それで、温度管理は機械に任せることになります。

コスナ 昔は、ここも人の手で。

加藤さん そうですね、少し前までは手作業でかきまわしたりて冷やしたりと、かなり手間だったようです。

今もこの作業を人の手でおこなう蔵もありますよ。

コスナ この機械があると少し楽になりますね。

加藤さん これは、業界内ではよく知られた機械なんです。

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コスナ トムゼット、というんですか。

加藤さん 味噌業界では1、2軒しか使用していないと思います。

酒蔵さんで使用される機械なんです。

コスナ 日本酒などと同じくらいおいしく、麹を作れる。

加藤さん ええ、日本酒のように繊細でおいしい麹を作ることができるんです。

結構高級なんです。

コスナ やはり金額面で導入する蔵が少ないんですか?

加藤さん いえ、一時期かなり流行ったんですが、現存するものが少ないんです。

ほとんど故障して、修理できずに使用されなくなってきました。

コスナ こういう大がかりな機材の場合、修理のパーツというのは今も残っているんですか。

加藤さん 製造業者さんは残っているんですが、古い型なのでどこまでできるかは分かりません。

冒頭の釜もそうなんですが、部品のないものも結構あるので、自分たちで工夫して直すということも必要になってきます。

コスナ 極端な話、部品を自分たちで加工したり…。

加藤さん そういうことも必要になってきますね。

コスナ これは維持管理だけでも大変な手間がかかります。

加藤さん ただ、いい麹ができるので、クオリティを保つためには直しながら使っていくしかないんですよね。

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加藤さん そして蒸した大豆とできあがった麹、塩をこういう木桶に入れて熟成させます。

コスナ これはまた大きい…。

加藤さん ここにあるのは、掘り出し作業といって、

下の方の味噌を上部にもっていく作業のために2つだけ取りだしたものなんです。

奥の蔵に行きましょう。

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加藤さん こちらが木桶の保管場所です。醸造室とも呼んでいます。

コスナ 大きな木桶がいくつもありますね。 

加藤さん それぞれ味噌がたっぷり詰まっています。ここでじっくり熟成させて、

うまみを増していくんです。実は、木桶はこれだけではないんですよ。

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加藤さん こちらの部屋には2桶ずつ木桶が入っています。

コスナ いや、このサイズのものがこんなに。

加藤さん 全部で20本が仕込まれています。

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加藤さん 中に蒸気の通る管を通して暖かくなっているので、発酵を進めることができます。

コスナ 失礼ながら、店頭からはこれだけ広い敷地と設備があるとは思いませんでした。

加藤さん そうですよね。味噌作りは味噌を寝かせるという工程が重要です。

そのために、保管するための広い土地が必要となります。

だから、どこの味噌蔵に行っても想像以上の奥行きや敷地が広がっていることがほとんどです。

コスナ スペースコストというものを考えてみても、

味噌の小売り価格からは考えられない大きさの敷地が必要ですね。

加藤さん そこはかなり痛いところです。実際、地方で、

これまでご覧いただいたような大きな設備を使うことなく、

細部まで人の手で作っている味噌蔵もあるんですが。

小売り価格にこの手間や土地のコストを載せられないんですね。

なぜなら、大手が低価格路線を貫いているので。

コスナ ジレンマを感じますね。大手よりも繊細な作業をおこなっているのに。

加藤さん 販路や売り方というものを考えていかなければいけません。

コスナ これは大変なものだ。ちなみに、ここ、線路が敷いてありますね。

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加藤さん これは、味噌を入れた木桶を動かすためのものです。

コスナ この大きな木桶を線路で!

加藤さん はい。2人くらいで動かして、線路に載せて移動します。

コスナ 2人で!

加藤さん 実は、業界ではこういう装置を導入しているところはほかにないんです。

ほとんどの場合、据え置き型で動かさないものか、フォークリフトで動かすかのどちらかです。

コスナ なんとなく、フォークリフトの方が楽なような。

加藤さん そうなんですが、実は、事故が多いらしいんです。

味噌蔵も広いとは言いながら、機材や設備が設置されているので、

大型の木桶の移動には不便なんです。

そこで、フォークリフトで移動中に木桶をどこかにぶつけてしまったり。

コスナ それは環境的にも危険ですね。

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加藤さん そうなんです。おおむね1年に1本くらい木桶がダメになってしまうこともあるそうです。

木桶もある程度使用すると酵母などが生きていてくれるので、

少なからず味噌に影響を及ぼしていると思います。

だから、なるべく大切にしたいんですね。

実際、熟成を木桶ではなくほかのもので行うと、味が違うんです。

コスナ やっぱり、木桶のがおいしいんでしょうか。

加藤さん いえ、そういう訳ではありません。

別の容器でもおいしいです。ただ、木桶で熟成させたものの味とは違うんです。

木桶の特徴、別容器の特徴と、味の特徴が変わる、というイメージですね。

だから、好みの問題になってくると思います。

木桶だからおいしい、という訳ではないですね。

コスナ そうなんですか。これは読者の方も初めて知ったという人が多いと思います。

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加藤さん 味噌の味のちがいって、実は意外と知られていないんです。

その中でも、木桶は手間がかかるので、木桶で味噌を作る蔵は少なくなってきました。

人によっては伝統が失われる、と考えるかもしれませんが、

これは逆に言えば、顧客へのアピールポイントにもなります。

手作りで、木桶で作られる味噌の希少性や、味わいのちがいを正しく伝えることができれば、

この価値を分かってくれる人に私たちが出会う可能性も大きくなりますから。

コスナ なるほど。

大手の味噌メーカーなんかは、おそらく手間のかかる木桶は使用していないと思うんですが、

桶にはどういう素材を使っているんですか。

加藤さん ステンレスか、FRPという化学繊維を使った容器が多いですね。

コスナ FRPというと、車のボディやカートのシートなどにも使用されますね。

加藤さん 軽くて丈夫なので、取り回しが効くんです。

ステンレスよりも熱伝導しにくいので、安価で味噌作りに向いています。

そして、これもまた味の特徴が変わります。FRPの桶で作った味噌の特徴がでるんです。

これ、おいしいんですよ。

コスナ 身近な食べ物のことなのに、知らないことがいっぱいです。

この木桶は、熱伝導も低くて酵母菌も育ってと、利点が多いと思うんですが、

こんなに大きなもの、どこで制作されているんですか。

加藤さん こういう木桶ばかり作っている職人さんはほとんどいなくなってしまいました。

現在では、大阪の方に1軒残っているそうです。

コスナ 1軒だけ。

加藤さん しかも、職人さんは1人と聞いています。

製作期間も長く、原材料の問題もあるので、

たとえば今お願いしたとしても、

製作にとりかかってくれるかは微妙ですね。

コスナ ほかの蔵などからの予約でいっぱいなんでしょうね。

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加藤さん そう思います。それから、味噌蔵の人間が木桶制作を手伝うことになるでしょう。

コスナ 味噌蔵の方が。

加藤さん 実際、いくつかの味噌蔵、醤油屋さんの人間が修行に行っているそうです。

木桶の作り方を伝授してもらわないと、技術が絶えてしまうということで。

コスナ こういうところにも、技術継承の問題があるんですね。

本当に、最近は新しいものばかりに目がいきがちで、

国も企業もこれまで続いてきたものを大事にしないというか。

加藤さん そうかもしれませんね。

本来であれば、ウチも修行に行かなければいけないかもしれません。

いまは木桶を破損することなく使用できていますが、

将来的にはどうか分かりません。

コスナ 代替物のない、貴重なものばかりですね。

本当に、見学させていただいてありがとうございます。

加藤さん いえ。それでは、店舗の方に移動しましょう。

 

蔵の見学は終了、ではなく、もう一点気になるモノが。

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コスナ 大きな石がいくつもありますが、こちらもなにか味噌作りに使用されるんですか。

加藤さん これは重しです。木桶の上に載せて使います。

コスナ あの高さの木桶に、これを上げ下げすることを考えるだけでも筋肉痛になりそうです。

加藤さん 筋肉を使用するのは、味噌を木桶から出すときなどもそうですね。

人力で出すので。

コスナ あの量をですか!

加藤さん 手作りは手間がかかります。

加藤兵太郎商店

帰りがけに、冒頭で出てきた大豆の蒸し作業をする釜が空いていました。

こちらも手作業でと考えると、大変な手間暇をかけて作られていますね。

次回「味噌とこれからの日本の食卓について」をお聞きします。